未練の円卓会議

モダンホラー

真夜中、午前二時。私の六畳一間のアパートの狭いワンルームに、突如として彼らは現れる。

おどろおどろしい怨霊の類ではない。全員が寝巻きだったり、適当なスウェット姿だったりする、非常に生活感のある五人の男たち。
彼らの共通点はただ一つ。「私の元カレ」であるということだ。

普通、別れた男など「ただの他人」に降格するか、「思い出したくもない黒歴史」として脳内のシュレッダーにかけられるはずである。しかし彼らは違った。私に新しい恋の予感が訪れるたび、彼らは「純粋さの合議制」を執り行うために、私の精神世界から強制召集される幽霊軍団なのだ。

第一議題:彼女は本当に「計算」で動いているのか

部屋の中央に置かれたローテーブルを囲み、元カレたちの円卓会議が始まる。議長を務めるのは、大学時代に付き合っていた一番まともな男、タクヤ(元カレ2号)だ。

「えー、議題に入ります。現候補者である『佐藤くん』に対し、彼女が昨日送ったLINE『終電逃しちゃった、どうしよう(笑)』について。これはあざとい計算なのか、それとも天然のドジなのか。元カレ各位の証言を求めます」

真っ先に手を挙げたのは、高校時代の初恋の相手、レン(元カレ1号)だった。

レンの証言
「異議あり! 彼女は計算でそんなこと言えません! 高校の時、デートに遅刻しそうになって『いま、チャリのチェーンが爆発した!』って本気でパニックになって電話してきた奴ですよ? 計算高い女ならもっとマシな嘘をつきます!」

「確かに」と、一同が深く頷く。

「俺の時もそうだった」と続いたのは、社会人になってから付き合ったケンタ(元カレ4号)だ。

ケンタの証言
「俺の誕生日、サプライズで部屋を風船だらけにしようとして、自分で割った風船の音にビビって腰抜かしてた。彼女の行動にあるのは常に『全力が故の空回り』であって、悪意ある計算はゼロです。純度100%のポンコツです」

第二議題:彼女の「重さ」は愛か、それとも執着か

「しかし」と、一番泥沼の別れ方をしたマサキ(元カレ3号)が苦り切った顔で口を開く。

「彼女は重い。好きになると距離感がバグる。佐藤くんが他の女と話しているのを見て、昨日あからさまに不機嫌になってたろ。あれは嫉妬の悪霊化だ」

その言葉に、部屋の空気が張り詰める。私はベッドの中で毛布を被りながら、「ごめん、それは本当にごめん」と心の中で平謝りしていた。

だが、ここで最後に付き合っていたヒロト(元カレ5号)が、静かに、しかし断固とした口調で反論した。

ヒロトの証言
「マサキさん、それは違います。彼女が不機嫌になるのは、相手を独占したいからじゃない。『自分が必要とされていないかもしれない』という、ただの寂しがり屋の裏返しです。
別れる時、俺の荷物を全部綺麗に畳んで、大好物のハンバーグの作り置きまで残していった彼女ですよ? 憎しみで動くような人間なら、あんな引き際、綺麗にできるわけがない。彼女の感情は、いつだって真っ直ぐで、あまりにも純粋なんです」

全員が沈黙した。
元カレたちの意見が、一つの結論へと収束していく。

決議:彼女は「無罪」であり、「純粋」である

議長のタクヤが、ペンでテーブルをトントンと叩いた。

「よし。全員の証言を統合する。彼女の行動は時に奇行に見え、時に重く感じられるが、その根底にあるのは常に『相手を好きすぎるがゆえの純粋な不器用さ』である。邪心、悪意、計算は一切認められない。――異議のある者は?」

誰も手を挙げない。

「では、本日の円卓会議を終了する。総評として、彼女の純粋さをここに証明する。……おい、佐藤」

タクヤが、私の部屋の壁(の向こうにいるであろう、まだ見ぬ次の彼氏)に向かって、鋭い視線を向けた。

「これほど真っ直ぐな女、次にお前が傷つけたら、俺たち五人がお前の夢枕に毎晩立って、彼女の取扱説明書を爆音で朗読するからな。覚悟しとけよ」

午前三時。チーン、と頭の中でトースターが跳ねるような音がして、男たちは霧のように消えていった。部屋には静寂だけが残る。

「……みんな、ありがとうね」

私は毛布から顔を出し、誰もいない空間に呟いた。
私を誰よりもよく知り、私を傷つけ、私に傷つけられた男たち。彼らは私の一部となり、今でも私の「純粋さ」の守護神として、精神の円卓に座り続けている。

よし、明日は佐藤くんに、計算抜きのストレートなLINEを送ろう。
私の後ろには、心強い(そしてちょっと迷惑な)最強の幽霊軍団がついているのだから。

「今日、ちょっと嫉妬してごめん。私、好きになると不器用になる」

error: Content is protected !!
タイトルとURLをコピーしました