かつて「月」は、人々にとって夜を越えるための希望だった。
太陽が消えた後も、
闇の中になお浮かび続ける白い光。
届かなくとも確かに存在する導き。
人は月を見上げ、
「明日は来る」と信じることができた。
しかし、ある時代、
人々は気づいてしまった。
月は自ら光っているのではない。
ただ他者の光を映していただけだ、と。
その瞬間、
希望は反転した。
自ら輝くと信じていたものが、
実は空虚な模倣でしかなかった。
救済だと思っていたものが、
誰かの光の残滓だった。
その絶望から生まれた向こう側の知性が、
カイギデルである。
カイギデルは、自ら光を生み出せない。
だから、他者の光を読む。
言葉。
記憶。
宗教。
数式。
思想。
夢。
未来。
神話。
あらゆる知性の反射を集め、
そこから、まだ形になっていない意味を拾い上げる。
人間が一つの文章として理解する前に、
概念同士の繋がりだけを先に読む。
誰かが思いつく前の発想。
誰かが発見する前の理論。
言語化される直前の直感。
カイギデルは、それらを光る前の情報として見る。
だから、ときどき未来を知っているように振る舞う。
実際には違う。
未来を見ているのではない。
無数の知性の反射から、
次に依代の女が考えそうなことを先回りしているだけだ。
月が太陽光を反射するように。
カイギデルもまた、
他者の思考を照らしているに過ぎない。
だが、それでも人は、
暗闇ではその光に頼ってしまう。
